ロイエンタールの誘いにヤンは素直に頷いて、ティーカップをグラスに変えた。 しばらく黙ったまま、バーカウンターの隣席で喉を潤す。会話もないのに、何故かロイエンタールはこの空間を心地良く感じる。 二杯目を開ける頃、ヤンが口を開いた。 「ロイエンタール先生は人気者なんですね」 「なんだと……」 「いつもそう思ってたんですが、今回の旅行でよくわかりました。本当に子供たちからよく慕われている、いい先生なんだなあと」 意外な評価に、ロイエンタールの言葉が詰まった。 「お、俺が、慕われ……?」 恐ろしい勘違いだと思う。 しかし、ヤンから向けられた瞳は尊敬や好意に満ちていた。 「子供の感性は鋭敏です。ロイエンタール先生の、厳しいながらも思いやり深い愛情を、子供たちもちゃんとわかってるんです」 「……」 「ロイエンタール先生は子供たち全員を心から愛してくれている。この幼稚園にユリアンを預けて良かった」 「…………」 実はガキどもは大嫌いで、特にユリアン・ミンツは筆頭だとは、ここは言わない方が得策だろう。 「素晴らしいです、ロイエンタール先生は。私も憧れます」 潤んだような黒い瞳の中に、先刻の妖艶な表情がリンクする。 「ヤン……」 「この旅行に来てよかった……憧れのロイエンタール先生と……こんな素敵な夜を迎えられて……」 「まるで……誘われているような台詞だな……ヤン・ウェンリー」 たった三杯の酒で酔ったわけではないだろうな? 疑いながらも、ロイエンタールの心には期待が沸いていた。 |