「……心配をしていた」 「えっ」 ヤンの間近に真剣な表情をした美貌があった。幾度見ても慣れないくらい綺麗過ぎる。彫像のように秀麗な貌も。宝石のような蒼氷色(アイスブルー)の瞳も。 「あなたが無事に俺の許へ帰ってきてくれて良かった……」 「いや、子供のお遣いじゃなんだから」 言いかけた唇は塞がれてしまった。 温かい感触。それから唇を啄(ついば)まれる。いつも蕩けてしまうようなキスだ。 このまま酔っていたい。幸福な気持ちになれるから。 口付けを交わしながらラインハルトの冷たい手がヤンの頬を撫で、首筋に降りていった。 「ラインハルト。提案なんだけど」 「なんだろうか」 シャツのボタンに触れかけていたラインハルトの指が、次の瞬間硬直する。 「一度、試しに女性を抱いてみてはどうだろうか」 「――――!?」 数刻前まで慈愛の美神のようだった皇帝の貌が、疑心の戦士のように変貌した。 「なんと言った、ヤン」 「試行錯誤も必要かと。未知の領域に目覚めるかも知れないよ」 「ヤンは俺が他の者と寝て平静でいられるのか」 冷たく呪いのような声がヤンを責める。 |