何を食べているのか、味がわからない…… ヤンがそう感じるのは、ラインハルトが全く喋らないからだった。ヤンと対峙してから、会食を始めてからも、一言も話さず無言で食事を取っている。 やはりこれまで戦っていた相手だから一緒に食事したくないのだろうか? いやいや、誘ってきたのは向こうだし。 実物のヤン・ウェンリーに会ってみたら、予想と違いすぎて失望したということだろうか? これまでも幾度もそういうことはあった。【エル・ファシルの英雄】に始まった時から、ヤンには虚名が走り過ぎているのだ。 ヤンの手は料理よりもワイングラスを求めるようになっていた。 居心地の悪い晩餐が全て終わると、立ち上がったヤンの姿を、美貌の帝国宰相の蒼い目がじっと見ていた。 初めて、ヤンのために唇が開かれた。 「……似合っている、な……」 「???」 現在ヤンが着ているのは帝国軍元帥服で、それがラインハルトの指令であったことを思い出した。 初めて掛けられた言葉がそれとは。 お世辞なのか、審美眼がおかしいのか、わからない…… 結局ほとんど会話もないまま帰宅するラインハルトを、ヤンは玄関ホールまで見送った。 若い宰相は足を止めて、豪奢な金の髪を揺らして、玄関ホールの天井を見上げた。 その後ろ姿から小さな言葉が漏れたのを、ヤンは聞き留めた。 「ここに、呼ぶのではなかった……」 やっぱり、失望させてしまったのだ…… しかし不要と思われてしまっても、今更どうしたらいいのか。いっそクーリングオフで同盟に返品してくれたらいいのに。 |