●「掠奪された黒髪の花嫁」より抜粋●

 裸にローブを羽織っただけの姿で出てきて、濡れたダークブラウンの髪を拭きながらベッドルームを覗き込むと、図々しい同盟人は気持ちよさそうに寝入っていた。
「この俺のベッドが男に占拠されるとは」
 ベッドサイドに腰掛けて、ロイエンタールは眠る男を二色の瞳で凝視した。
 顔立ちは悪くない。軍人にしては線が細いが、退役して喜んでいるくらいだから、軍隊でも落ちこぼれの厄介者だったのだろう。
 薄く開いた唇は形良く、色も厚みも何かを誘うようだ。
 金銀妖瞳の中で悪戯心が沸いていた。
「本物のヤン・ウェンリー元帥はもっと鋭利で威風な男だろうから、代役にはならんが……」
 ロイエンタールは眠るヤンの唇に吸い付いた。
 同性だが、感触は悪くない。
 黒い頭を抱くようにして、もっと深く唇を重ねてみる。
「んん……」
 苦しそうに唸りながら舌先は逃げたが、瞼は閉じられたままだ。
「とくに気色悪くもない。男にキスをしても案外いけるものだな」
 眠る男の、特に軍人らしくないのはこの鍛えられていない首筋だ。
 ヤンの耳の後ろに、ロイエンタールは唇を近づけた。鼻先に香るものに記憶がある。白薔薇の花束から移った香りだ。
 柔らかい薔薇の花びらを噛むように、ロイエンタールは耳の下の皮膚に歯を立てた。
「ううん……っ」
 邪魔そうに、ばさばさと黒髪がシーツに揺れる。
 その様子にもロイエンタールは満足した。
「けっこう色っぽい仕草ができるじゃないか。男を抱く趣味もヤンと夫婦の営みをする気もないが、やろうと思えば出来るかもしれんな」

BACK