「卿は皇帝に添い寝をするために、今夜来たのだったな……ヤン元帥」 同盟軍の象徴である象牙色のスカーフが失われているので、首に筋肉が付いていないのもよくわかる。 「俺は皇帝と同じレベルなのだろう? 卿にとっては」 昼間、あの首に手をかけた。男にしては細く、容易くへし折れそうな…… ラインハルトは自分の右手を見つめた。 あの時触れた肌は吸い付くように滑らかで、煽情的だった。体内で血液が逆流する。 「俺にも添い寝をしてくれ、ヤン・ウェンリー」 低く感情の篭もらない声。 逆にヤンはくだけた様子で苦笑した。 「エルウィン・ヨーゼフは六歳だよ。君は幾つなんだ、ローエングラム公。それに添い寝をするには、君のベッドは狭すぎる」 「卿は、皇帝が添い寝の相手を欲しがっているのだと言っただろう。俺も欲しい」 あくまで冗談だと思っていたヤンの腕が引かれた。 ソファから立ち上がり、ラインハルトの美貌の近くまで引き寄せられる。 驚いて茫然としていたヤンだったが、蒼い炎を間近で見た時………………そこには。 「ローエングラム……公」 「ひとり寝はもう耐えられない。今夜は傍にいてくれ、ヤン」 顎に添えられていた掌が滑り落ちて、ヤンの首筋の素肌をさすっていた。 「ヤンが欲しい……」 何を求められているのか、ようやくヤンは悟った。 そう思って見ると、眼前の帝国宰相の容貌があまりにも美形すぎて、うろたえてしまう。思わず頬が熱くなり、鼓動も早くなってきた。 「あの……ローエングラム公。私は、男なんだけど」 脚まで震えてきたようだ。 アイス・ブルーの宝石が、ヤンを捕らえていた。 「承知している。卿を女性に見間違えたことは一度もないが、俺はヤンがいい」 感情を整理する間もなく、ラインハルトの本能が答えを出していた。 「わ、私は同性愛の経験は無くて……」 「安堵しろ。俺にも無い。同性どころか男女の経験も無い」 「安堵って、でもそれは………………」 唇を封じられて、ヤンはもう反論できなかった。 触れ合った温かい弾力から、ラインハルトの孤独が伝わってくる。 ヤンは自分が仲間たちに言った言葉を思い出した。 『放漫に振舞いながら、誰かに救いを求めてる』 それは、ラインハルト・フォン・ローエングラムのことだったのだ。 |