●「プラチナ」より抜粋●

「――――誓いを叶えるために来た」
 もしかして私に話しかけられたのか……?
 黒い髪が振り返る。
 廊下にいるのはヤンと若すぎる少佐だけだし、ラインハルトの蒼氷色の瞳は間違いなくヤンを見つめていた。
 視線が絡まると、ヤンの記憶巣の奥から目覚め始めるものがある。
「あなたに手が届くところまで来た。――――ヤン・ウェンリー」
「君は……」
 ヤンの本名を呼ぶ人間は今は誰もいない。
「ローエングラム少佐」
 ヤンは青年に呼びかけた。
「そうか。……私は君と会ったことがある」
 そして思い出した。
「忘れていたのは、君の姓が変わっていたからじゃない。君の背が高くなっていたからだ」
 これほど印象的な青年を、なぜ記憶から排除していたのだろうか。
 以前ヤンが会った時のラインハルトは、違う姓で自己紹介した。
 強い意志を秘めた蒼い瞳は、水平の位置にあったのだが、今は僅かに見上げなければいけない。
 金髪の美貌の少年は氷の刃のような瞳で、ヤンに対して何と言ったか。
「俺は宇宙を手に入れる」
 三年前と同じ台詞を、青年に育ったラインハルトは宣言した。
「俺は皇帝になる。……あなたは皇帝のものだから」

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