「――――誓いを叶えるために来た」 もしかして私に話しかけられたのか……? 黒い髪が振り返る。 廊下にいるのはヤンと若すぎる少佐だけだし、ラインハルトの蒼氷色の瞳は間違いなくヤンを見つめていた。 視線が絡まると、ヤンの記憶巣の奥から目覚め始めるものがある。 「あなたに手が届くところまで来た。――――ヤン・ウェンリー」 「君は……」 ヤンの本名を呼ぶ人間は今は誰もいない。 「ローエングラム少佐」 ヤンは青年に呼びかけた。 「そうか。……私は君と会ったことがある」 そして思い出した。 「忘れていたのは、君の姓が変わっていたからじゃない。君の背が高くなっていたからだ」 これほど印象的な青年を、なぜ記憶から排除していたのだろうか。 以前ヤンが会った時のラインハルトは、違う姓で自己紹介した。 強い意志を秘めた蒼い瞳は、水平の位置にあったのだが、今は僅かに見上げなければいけない。 金髪の美貌の少年は氷の刃のような瞳で、ヤンに対して何と言ったか。 「俺は宇宙を手に入れる」 三年前と同じ台詞を、青年に育ったラインハルトは宣言した。 「俺は皇帝になる。……あなたは皇帝のものだから」 |